闘牛というと強くて気性が荒く、暴れん坊というイメージがあります。取材をするうちに、普段は温厚で優しい性格だと分かりました。
ところで、闘牛の親子ってどんな様子なんでしょう?・・・お尋ねしたところ、子牛と母牛のいる牛舎を見せてくださることになりました!
あんなに体が大きな闘牛ですもの、母牛もさぞかし大きいのだろうと想像していましたが、ところがどっこいスレンダー。様子も随分おっとりしていて、とても優しい眼差しです。子牛は母牛にぴったりくっついて、めずらしそうにこちらを見ています。知らない人がやって来たって分かるんですね。近づくと素早く母牛の影に隠れます。離れてみると今度はひょっこり現れて、ぴょんぴょん跳ねる様子は無邪気で愛嬌たっぷり。かわいい!
そうこうしている間に餌の時間になったようです。餌やりの体勢に入った盛さんを見て、母牛が急にソワソワし始めました。柵から顔を出して、餌箱に顔を入れたり出したりしています。まるで『早くちょうだい!』と言っているみたい。盛さんは取材を受けながらせっせと餌を与えます。どんな餌を食べているのでしょうか。豪快にスコップでえさ箱に投入しているものは・・・おから?!
「“おから”はタンパク質や食物繊維がたくさんはいっとるけん、牛の餌にぴったりなんよ。」
餌は、他にも「とうもろこし」や「ヘイキューブ」(※)という草を加工したものを与えていました。
「牛にも食べ物に好き嫌いはあるんですか?」
「好きなのはやっぱり草やねー。夏になったら草を刈りに川に出かけるんよ。自然のものが一番いいわいね。」
よく観察してみると、母牛のヘイキューブの食い付きが違います。私もちょっとだけ味見させてもらいました。とうもろこしにチャレンジです。1粒ずつ潰して乾燥させています。少しかじってみましたが、味はありませんでした。ポップコーンが膨らむ前の種に似ていましたよ。
▲牛の餌。左から「おから」、「とうもろこし」、「干草」
※ヘイキューブ:
ビタミンを多く含む栄養価が高い牧草を天日乾燥させ圧縮し、キューブ状にしたもの。牛の非常食のようなものです。
これを1日2回ずつ与えています。スコップやカップで大ざっぱにやっているように見えますが、きちんと栄養を考えた量です。太らせすぎると受精しにくいんですって。きちんと健康管理されているんですね。
「こんなに牛がいますが、言葉を話さない牛の体調の良し悪はどうやって見分けているんですか?」
「毎日見よるけん、いつもと違うとピンとくるんよ。」
なるほど。1頭1頭の個性を把握しているから、少しの異変にも気づくことが出来るんですね。
驚いたことに、盛さんは飼育している牛達の誕生日を全て覚えていました!健康管理しながら調教していくのは大変なことですね。
雌牛は約20日の周期で発情がきます。受精すると、約280日の妊娠期間を経て子牛を出産します。この期間は人間とほぼ同じです。この周期を管理することでも、体調の良し悪しを把握することができます。
闘牛は生後5ヶ月でセリに出され、早くも闘牛としての素質を見出されます。そうして引き取られた牛は特別に調教され、およそ3年の時をかけてたくましく成長していきます。
「いつかアメリカンバイソンと闘わせてみたいんよね!」
生き生きと語る盛さん。アメリカンバイソン(バッファロー)というととても強そうなイメージがありますが、日本とアメリカの牛で対決なんて、実現したら面白そう!
盛さんと闘牛は監督とスポーツ選手のような関係です。毎日顔を合わせ苦楽を共にし、そうして信頼関係を築いています。盛さんは調教師をしながら、闘牛大会では勢子としても活躍されています。強い絆で結ばれた勢子と牛の雄姿は、闘牛場で見ることができます。ぜひ、厳しい闘牛の世界を肌で感じてみてください!
牛を繋いでおいたり、連れ歩く際に必ず引っ張るのが鼻輪。実はここが牛の弱点なのです。
鼻輪は生後約5ヶ月で空けられます。人間より力の強い牛を管理するための知恵です。
次回は、牛主もされている宇和島観光闘牛協会副会長のインタビューです。牛主の牛を飼う楽しみをたっぷりうかがいましたのでお楽しみに!