磨き、鍛える。
静かな山間に地響きがこだまする。

いよいよ私が一番楽しみにしていた、牛の本格的なトレーニングのはじまりです。今回、勇ましい姿を見せてくれたのは、四月場所に横綱で登場した「ラオウ」!一番強い牛のトレーニング姿を見せていただけるなんて思っていませんでしたから、ワクワクしながら練習場へ向かいました。闘牛の牛のたくましい体はどのようにして鍛えられているのでしょうか!


盛さんは「ラオウ」を練習場へ連れて行くために、慣れた手つきで繋げた綱を解きます。

「いつもやったら1時間くらい公園まで歩かせてから穴掘りさすんやけどな。」

ーえ?穴掘り?!トレーニングというと激しく巨木にぶつかったり、本番さながらの牛同士のスパーリング(?)で激しく激突する姿を想像していた私は、”穴堀り”という少々地味なキーワードに拍子抜けしてしまいました。

 

そんな私のことは気にも留めず、盛さんはまるで犬の散歩のように「ラオウ」を綱で操って、ゆっくりと山を登っていきます。


その先に見えてきたのは、ショベルカーでこそぎ落とされたかのように穴が開いた山の断面でした。もしかして・・・!

そう、山の断面は全て牛のトレーニングで掘られたものでした。穴掘りなんて地味だと感じていた印象が一瞬で消えてなくなり、恐ろしささえ感じました。

盛さんが「ラオウ」を穴場へいざなうと、「ラオウ」はゆっくりと土に向かっていきました。始めは土の匂いを嗅いでいましたが、そのうち前足で土を蹴り、勢いを付けて土にぶつかっていったのです。目の色も変わってゴリゴリと夢中で土を削り、削られた土が空に大きな円を描いてボトボトと落ちていきます。


 

盛さんが「オイ!」と「ラオウ」をせきたてると、「ラオウ」の息遣いはさらに激しくなり、静かな山間に「ラオウ」の鼻息とゴリゴリという土を削る低い地響きがこだましていました。

「散歩してヘトヘトになっとるところに、もっときついことさせるんが鍛えられるんよ。」

盛さんによると、穴を掘ることで、首・肩・足腰が鍛えられ、同時に技も覚えていくとのこと。でも、これって企業秘密ではないのですか?

「うちはなんにも秘密なことはないよ。全部見てもろうたらいい。」

自信たっぷりの盛さんですが、あとのお話で、他の牛主さんにも新しく良いと思うものはどんどん取り入れてもらって、闘牛の世界をより良くしていきたいと願う気持ちからおっしゃっているのだと知りました。

 

このあと、穴掘りのトレーニングは「ラオウ」の気が済むまで続けられました。牛によっては気が進まず、すぐにトレーニングをやめてしまう牛もいれば、長時間ずっと掘り続ける牛もいるということでした。私はすぐにやめちゃいそう・・・。(笑)

 

牛にストレスを貯めさせないという言葉を盛さんから何度か伺ったのを思い出しました。人間の都合ではなく、あくまで牛が中心の生活。自由さの中にあっても、牛たちは強い体に育っていくのです。盛さんと牛との信頼関係があってこそのトレーニング環境のように思えました。

 

次回は、将来闘牛として活躍が期待される?!子牛と母牛のかわいく微笑ましい姿をご紹介します。お楽しみに!